最終列車が出るまで


 チラッと左手を確認。結婚指輪は、していないよね。ダンナも私も結婚指輪をしていないから、あてにはならないけれど。

 彼の清潔な印象から、ダンナと同じ『アクセサリーは着けない派』(結婚指輪は違うと思うけど)かもしれない。それとも、見た目に反して結構な遊び人で、結婚指輪を着けていないのは計算ずくだという事もありうる。

ムムム……

 無遠慮に彼を見つめながら、勝手な妄想と推測が、私の脳内を駆け巡る。

 そして、そんな自分にはたと気付き、苦笑が溢れた。

 しばしの沈黙の後、突然苦笑を浮かべた私に彼は戸惑ったようだ。

 ミルクティーを差し出したまま、わずかに小首を傾げた。

あら、かわいい……

 いいオトコは、何をしても様になる。

「あの……」

 彼の不審げな声に、ようやく我に返った私。

「あっ、ごめんなさい!こちらと交換していただいても、本当によろしいんですか?」

「はい。自分は、何か温かい物でも飲もうと思っていただけなので。ブラックコーヒーでも、全く問題ありません」

 目を細めた彼の笑顔に、胸の奥の方が、キュッと小さく鳴った。

 おっ!?久々過ぎる感覚。『キュン』としたの?私ってば、『キュン』としちゃったの!?

 大きく波打った気持ちを落ち着けるように、小さく息を吐いた。

 自分を客観的に見る努力は、続けるようにしなきゃだね。うん。

「では、お言葉に甘えて……」

 彼が差し出していたミルクティーを受け取り、ブラックコーヒーを渡した。

「ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらずに」

 なんとなく、顔を見合わせて二人で笑った。



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