最終列車が出るまで
「最終ですか?」
彼の問いに小さく頷いた。
「はい。下りの最終です」
「自分は、上りです」
残念!……ちょっとだけ、ね。上りの最終列車は、十一時十八分だったかな?
「座って、飲みませんか?」
「そうですね」
一人掛けのイスが三脚並んでいて、その端に彼が腰を下ろした。私も反対の端に、腰を下ろす。
彼がブラックコーヒーの蓋を捻ったので、私もミルクティーの蓋を捻る。
コクンと一口飲めば、ミルクティーの柔らかな温かさと甘さが、口の中にフワリと広がった。
あぁ……おいしい。冷えた身体に、じわりと沁みてくる。いつも以上に甘く感じるのは、彼の優しさも上乗せされているせいかもしれない。
二口、三口と飲みながら、彼の横顔をそっと見た。
当然だが、横顔も美しい。スッと高い鼻とかスッキリとした顎から頬のラインとか。
思わずホゥ…と息を吐いた後、またもやはたと気付く。
私ってば、何してるの?これはまるで、おっさんがこっそり美女を愛でているようではないか。
一度ギュッと目を瞑って、頭の中を切り替える。
どうして私みたいなオバサンに、声をかけてくれたのだろう?飲み物を間違えて、子供みたいにうなだれた様子が、おかしかったからだろうか。
すごく知りたい気もするし、今この時間があれば、そんな事、どうでもいい気もする。
うん。それを、あえて追求する必要はないよね。