最終列車が出るまで
「温まりますね」
「ええ……」
不思議と、彼との間に流れる静かな空気は不快と感じない。むしろ、心地いいとさえ思う。
彼がふいに、大きな溜め息をついた。
週末だもんね。一週間の仕事の疲れが、溜まっているのかも。
「お疲れですか?」
私の問いに、彼は眉尻を下げて笑った。
「溜め息なんかついて、すみません!そうですね。まあ、ちょっと、疲れてはいますね」
私は、数時間前にコンビニで買ったチョコレートを思い出した。バッグを少し開いて、チラッとチョコレートのパッケージを確認する。
『疲れた時には甘い物』だと常々より思い、しっかりと実践している。
「甘い物は、平気ですか?」
「えっ?あっ、はい。わりと好きです」
彼の「好きです」の言葉に、ちょっと反応してしまう。ほてってくる顔をごまかすように、俯いてバッグからチョコレートを取り出した。
パッケージを開けると、普通の板チョコだと思っていたら違った。
四センチ角ぐらいの板チョコを、個包装した物が三枚入っていた。おっ、こういう感じが、ちょっと高級っぽい。お裾分けには、ちょうどいいよね。
一枚を、彼に差し出した。
「チョコレートですけど、よかったらどうぞ」
「あっ、ありがとうございます」
彼がチョコレートを受け取った。変に遠慮されなくて、よかった。
「疲れた時に甘い物を食べると、元気が出ますよ!」
自信たっぷりに言いきった私に、彼がニコッと笑った。
さっそく、食べてみる。思ったよりは、甘くなかった。でもそれ以上は、よくわからなくなってしまった。