最終列車が出るまで
初対面の人からいきなり渡されたチョコレートなんて、気持ち悪くない?それとも、お節介だった?なんて、今さらながら心配になってきている。
「おいしいですね」と彼はチョコレートをかじっていたけど。気を遣わせてないかな?無理、してませんよね?
横目でそっと、彼の様子を窺っていた。
すると、フッと小さく笑った後に、彼が口を開いた。
「自分の話を、少し聞いてもらえますか?」
「いいですよ。どうぞ!」
彼の話を促すように左手を彼に向け、こちらを見ている彼に微笑んだ。
「今日は、接待でした。得意先の会長と社長です。ちなみに二人は親子です」
小さく頷いた。接待に、疲れたのかな?
「食事の後、会長のリクエストでスナックに行きました。自分の上司の、行きつけの店です」
“スナック”か。なんか、懐かしいな。私には、すっかり縁のない場所になったけど。若かりし頃は、会社の飲み会の二次会、三次会といえばスナックだった。上司や先輩に引っ張っていかれ、デュエットやチークダンスを付き合わされた。
今だったら間違いなく、“セクハラ”、“パワハラ”案件だ。
でも、決して嫌な思い出ばかりではない。いつも上司や先輩のおごりだった。自分では頼めない、いいお料理やお酒をいただけた。お酒の飲み方というか、楽しみ方を教えてもらった気もする。
思い出しながら、懐かしさに少し頬が緩んだ。が、前を見たまま話していた彼の頬は、ピクッと小さくひきつったように見えた。
そのスナックで、何かイヤな事でもあったのだろうか?
「そのスナックにいた女の子、二十歳のナナちゃんを会長は気に入ったようで。ナナちゃんに、ずっと話しかけていました」