最終列車が出るまで
「っ!!で、でも、最終が……」
彼に視線を囚われたまま、頷いてしまいそうなギリギリで、なんとか言葉を絞り出した。
「そうですね。最終列車を逃したら、家に帰れませんね」
フッと彼が笑って、ピンと張りつめていた空気が緩んだ。ハッと小さく息を吐いて、私も微笑んだ。
「はい。最終列車を逃したら、家に帰れませんよ」
さっきまでのあの緊張感は、何だったのだろう。気になりながらも、これ以上は深く考えない方がいいとも感じる。
彼にしてみれば、オバサンをちょっとからかっただけ、だったのかも。
「じゃあ、約束してください」
彼の静かで強い声色に、再び視線が囚われる。
「次お会いした時には、今度こそ飲みに行きましょう。……たとえ、最終列車を逃す事になっても」
「っっ!!」
彼が長い腕を伸ばし、イス一脚分の空間はあっさりと埋まった。
差し出された彼の右手の小指。小指なのに、ずいぶんと長い。
彼は微笑んでいるけど、その瞳は真っ直ぐに私を見ていた。
私は引き込まれるように、自分の右手の短い小指を彼のそれに絡ませた。
「「指切りげんまん 嘘ついたら 針千本飲ーます 指切った」」
二人で囁くように歌って、指切りをした。
指切りが終わっても、小指を絡めたまま見つめあった。
冬の夜の冷たい空気が徐々に色づき、温いものへとかわっていく。私の心臓は忙しなく脈打ち、その存在を主張する。
肌が触れる面積は決して大きくないのに、そこからお互いの体温が、ジワリと交わっていくようだった。