最終列車が出るまで


 最後のダメ押しが、私が出かける直前。今回は、ちょっと早いが連絡しておこう。

 いくら仕事で神経を遣っているからといって、家でちょっと気を抜きすぎだと思う。

 私や娘達の予定なんて何度伝えても、ダンナの右の耳から左の耳へと、新幹線よりも早く通過してしまう。


 そして、(お忘れかもしれませんが)冒頭の私のセリフとなるわけだ。

「もしもしとうさん、お疲れ様です。わたくし、六時三十八分の列車なんですけど。大丈夫、だよね?」

「!あっ、あー。悪い!たぶん、遅くなる」

「は~~!!??」

 わずかなダンナの沈黙に、サッと悪い予感が走った。予想通りのダンナの言葉に、少々言葉や態度が悪くなるのは許してもらいたい。ダンナの『たぶん』は、イコール『絶対』だから。私にしてみれば、今さら何言っちゃってるのっ!?て感じだ。

「営業が一人、熱を出して早退したんだよ。夕方になってから、急に動かなくなった軽トラを見てくれとか、事故車の引き上げとか。まあ、そういう事で帰れないんだよ」

「そういう事でって……」

 事情は何となくわかったが、私はどうすればいいの……?

「とりあえず、かあさんは飲み会に行けよ」

「そんな事言ったって!わた……」

「ああ、悪い!時間がない。じゃ!」

 何も言わせてもらえず、通話を切られた。

「ちょっ!!……時間がないって、それはこっちのセリフだし……」

 ダンナに届いていない文句を、思わず呟く。

「母さん、どうしたの?」

 呆然とする私に、逸美が声をかけてきた。ハッとして娘二人の顔を見れば、不安そうな色が浮かんでいる。

とりあえず口角を上げてみたが、ひきつったような笑みとなってしまった。



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