最終列車が出るまで
「とうさん、いろいろあって仕事が遅くなっちゃうみたい。……とうさん特製オムライスは、たぶん無理かな?」
「「ふ~ん」」
ダイニングテーブルで宿題をする娘達は、意外にもそんなにショックを受けていないようだ。
「私、ハンバーグが食べたい!」
肉食恐竜の夏美ザウルスが、目を輝かせて言った。
「いいねぇ!じゃあ、フォレストだよねっ!」
家族でお気に入りのカフェの名を逸美が出せば、二人のテンションはさらに上がる。
切り替えが早すぎる二人の様子に呆気に取られていれば、逸美が私を見上げながら口を開いた。
「母さん、六時三十八分の列車なんだよね?大丈夫?」
ハッ!としてスマホを見れば、六時を過ぎていた。ヤバッ!とは思うが。
「いっちゃん、なっちゃん。とうさんは、遅くなるから。ご飯もないし、家には二人だけとなります」
ダイニングテーブルに手を付いて屈み、二人の目を交互にしっかりと見ながら言った。
「全然平気!」と逸美が笑えば「大丈夫だよ!」と夏美も笑った。
「「そういう事、今までもあるし~」」
二人が声を揃えて言えば「確かにそうだけど……」と、私は眉尻を下げた。
長いお休みに、不意の四時間授業。小学校の役員会で、ダンナが仕事から帰ってくる前に、部屋を出た事もある。
でもそれは仕事や学校の用事で仕方なかったからで、“遊び”ではなかった。
「私となっちゃんは大丈夫だから!母さん、早く準備したら?」
罪悪感で固まっていた私の背中を、逸美がさりげなく押してくれる。