一夜の奇跡は真実の愛を灯す~副社長の甘い誘惑に溺れて~
その時だった。


え…


すごく美しい…音…?


不意に流れて来たその音色が、私の閉ざした心のドアを少し震わせた。


うつむいていた頭をゆっくりと上げ、その音の方に顔を向ける。


少し離れた場所で男性が弾いている楽器…


バイオリン…?


透き通ったような高音の波に、思わず目を閉じる。


とても心地よく、耳障りの良い音にどんどん惹き込まれて…


深く傷ついた心に、ポっと明かりが灯るような温かい感情が宿った。


その瞬間、自然に涙が溢れて…


でも、それは…


さっきまでの悲しい涙ではなかった。


私はハンカチを取り出して、潤んだ瞳を押さえた。


そしてもう一度、バイオリンの方に視線をやると、今度は演奏者の姿が私の視界に入って来た。


弓を持つ手。


細くて長い指がしなやかに動く。


しばらく見とれていると、その男性は、顔を一瞬こちらに向けた。


と、同時に、私の体に身震いするほどの衝撃が走った。


『嘘…』
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