カレシとお付き合い① 辻本君と紬
♢ オレが気になるの?



 辻本理玖(つじもと りく)君は同級生の男の子だ。

 高校2年生の新学期に、同じクラスになって初めて話をした。

 始業式の後。
 3年の先輩が卒業してしまった学校で、かわりに高1が、真新しい制服に身を包み登校していた。

 去年の私達もあんなだったんだろうか、なんて考えながら、マドの外を見ていた。
 私達2年生もクラスが変わったので、学校全体がそわそわと落ち着かない。

 テンションの高い生徒たち、あちこちでクラス分けを見て悲鳴や歓声があがる。


ドサッ


と勢いよい音がして、驚いて横を見た。
 学生カバンと大きなスポーツバッグ。
 見上げると持ち主らしい男子が立って、見下ろしていた。


「ごめん、驚かした? 」


ハッキリと話す声、明るい笑顔。


「俺、辻本理玖、サッカー部」


と言って、どかっと椅子に座った。

 クラブなんて聞いてないのに、運動部の子ってすぐ挨拶がわりにクラブを言ったりする。
 それだけ真剣に取り組んでいる、自分がどんな人か表す一言。

 私はとりあえず頭を下げた。
私を表す一言は⋯⋯ ない。

 辻本君は、いかにもスポーツをしているような体つきと動きだ。
 
 背がかなり高い。
 手足が長く、細身だが、全体に大きくてしっかりしている。
 黒髪の短髪にキリッとした男の子っぽい精悍(せいかん)な顔で、唇が薄く形良いのが目についた。
 サッカー部だからかな、制服からのぞく肌が日焼けしている。
 ブレザーの上からでも分かるような綺麗な筋肉質な体型に、ドキッとした。

 座った生徒机と椅子が小さくて、荷物も体も何だかはみ出している。


「名前は? 」
「あっ⋯⋯ 」


 まだ名乗ってもいなかった。
 声を出したら、うまく発声し出来ないみたいな、そんなに人見知りでもないはずなんだけど⋯⋯ 。


桜井紬(さくらい つむぎ)です」
「『つむぎ』って、どんな漢字?」
「⋯⋯ 糸に理由の由⋯⋯ 」
「あー、着物の紬な」


 その後も、辻本君は私に次々に話しかけてきた。


「兄弟は? 」
「兄が1人」
「オレは弟がいる。本当は妹も欲しかったんだよな」


 私の背に合わせて、少し顔を傾けてのぞくように目を合わせて話しかけてきて、男の子にこんな風に話された事がないから、すごくとまどう。


「好きな教科は? 」

「昨日は何してた? 」

「受験どうする? 」


えっ?なに、このアンケートみたいなの、初対面からこんなに聞く⋯⋯ ? と言いつつ⋯⋯ (へー、辻本くんそうなんだー)って、私も興味を持って彼の答えを聞いてしまってる。
 仲のいい友達も聞かれた。


「えっと石原杏珠(いしはら あんじゅ)さん」
「同じクラス? 」
「今年は違う。小学校から友達で、高校も一緒に受験した」
「へー、オレは森和慎(もり かずま)ってヤツが仲良いな。オレも小学校から和慎と一緒なんだ。サッカー部じゃないけど。そいつん家が美容整形で、そこの医者になるらしい。オレは小学校からずっとサッカー部、ひとすじだ! 」
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