カレシとお付き合い① 辻本君と紬

 ガラッと教室のドアが開いたのに泣いてて私は気がつかなかった。
 なぐさめてくれてたまいちゃんが、ポンポンと背中を勇気付けるようにたたいて離れた。

 かわりに、大きな温かい手が、背中にあてられそのまま、髪にフワッと何かがあたった。

 つつまれるみたいに。

 辻本君のシャツの匂いがした。
 太陽と石けんみたい。
 驚いて泣いたまま顔をあげたら、すぐ近くに辻本君の顔があった。
 背中に手を当てて、抱き込むように、私をのぞき込んでいた。
 ちょっと困っていて、ちょっと意地悪そうで、優しそうで、嬉しそうだった。
 思わず聞いた。


「返事⋯⋯ したの?」


 声が震えて、小さくて聞こえなかったかも。


「ごめん、」


 ごめんて、彼女の告白を受けたんだ、と意識が真っ白になった。
息がとまったみたいに、世界が凍りついた。

 真っ青になって両目をつぶって、ギューっと自分の手を握った。体がギューと固くなった。
 私の様子に、辻本くんは、


「違う!違う!」


とあわてて、


「興味もないし、断った」


と少し早口で言った。
それから、私と目を合わせて言った。


「まぁ、試したのかもしれない、紬を」

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