カレシとお付き合い① 辻本君と紬

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その『先輩』とは、係が一緒だった。
高校生になったばかりの春。
決まった図書委員のミーティングで、高3の先輩に初めて会った。
最初、単純にいい人だなと思った。
一緒に係になった子たちは、みんなそう思ったみたいだった。
女子達みんなで、「先輩ってかっこいいね〜」って騒いでた。テレビを見ているように。
優しくて、何でも出来て、分けへだてなく女子に優しいと思った。
みんなで「いいね〜」って騒ぐのも女子校の時みたいで楽しくて。
現実感は全然なくて。
2人で何か話したことはなかった。
先輩は国立受験だったから、夏からはめったに来なくなって、卒業式の日、みんなで学校で挨拶に会いに行ったら、他の人が違う用事で離れていって、たまたま先輩と私の2人になった。

『かわいーよね。付き合っちゃう?』

と急に言われ、

『えっ?と、はい⋯⋯ ?かな⋯⋯ ?えっ?』

とモゴモゴいい加減な返事をしてしまって、

『じゃ、俺のカノジョね』

と言われた。

その直後、(どうしよう)と思った。キューっと緊張して、変な事に返事しちゃったんじゃないかって。

私この人と付き合うの?
えっ、困る。
そんなつもりなかった。

「言わなきゃ! 」とすぐ思ったのに、まるで石でも飲んだみたいに声が出なくて、そのすきに先輩が他の子に呼ばれて行ってしまって、そのままになった。

連絡先も交換してない。
先輩が国立受験に落ちて、浪人生になった、と噂で知った。

一回も何の連絡もない。

でも、あの日の告白が私をしばる。
はっきり確認もせず、どんどん怖くなって。
すごく気持ち悪くなってきて。
なかったことにしたくて。

急に、「彼氏だよー」って現れたらどうしよう。
え、怖いし、気持ち悪い。
後悔してる。
なんで、はっきり断らなかったんだろう。
言い訳すれば、驚いてうっかり言葉が出ただけで、返事してないって。
直後から、「どうしよう」って思ってた。
「どうしよう」がずーっと心の中にあって、怖くて。

辻本君と話をするようになって⋯⋯ 近さが全然違う、親しさが違う、私に対する気持ちも、すべてが違うって気がついた。

辻本君のようにちゃんとした人じゃない。

今になってわかった
仮面をかぶったみたいに、全部が嘘くさくて、女子に思わせぶりに話すのが好きで、男子からはなんとなく嫌な顔されてた。

今更連絡をとったら、せっかく顔も分からないぐらいで、なかったようにもう知り合いでもないかもしれなのに、逆にまた、むし返したら、ってそれも怖い⋯⋯ 。

バッタリ出くわしたら、どうする?
大学で鉢合わせしたら?
私は彼女のまま?

でも、そんなことになって、どうにも解決できない自分が一番嫌だ。
辻本君の前に、立つことすら出来ない、ダメな自分が一番辛い。

辻本君なら助けてくれるかも、って甘える心があって、自分がすごく嫌なんだ。
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