カレシとお付き合い① 辻本君と紬
あんな人だったんだな。
去年の委員のときには、普通にいい人そうだったと思ったけど。
辻本君と全然違いすぎて、全部がまるで違いすぎて驚く。
きちんとした言葉で、ちゃんと流されずに断っていれば、そもそも、何もなかったのに、事を大きくややこしくしたのかもしれない。
言われた言葉もグサってきたけど、それより自分に自信がなくなる。
《キモい》
《察しろ》
《普通わかるだろ、おかしい》
私、そうゆうところがあると思う。
話がズレてる、というか、テンポもおかしかったり、融通がきかなかったり。ちゃんと話せなかったり。
高校になって、ずっと思ってた。
女子校にいた時には、感じたことがなかった違和感。
でも慣れない男の子相手だから、とかではなくて、普通に変なんだ。
みんなも、辻本君もそう思うんじゃないか、私のこんな馬鹿みたいなところ。
ややこしくして、おちいって、解決できなくて、なのにその深刻な内容すらズレてる⋯⋯ 。
辻本君は、俺にしとけって言ってくれたけど、私が先輩の素が見えてなかったみたいに、彼も私のこんな面を知って、面倒くさくて馬鹿みたいだと思うかも。
しばらくボンヤリ立ってたら、
「いつまでそこいるの? 」
と、毎日聞き慣れた声がして、「えっ、」と思って振り返った。
すぐ近くの壁にもたれて、辻本君がいた。
腕を組んで、じっと見てた。
「えっ、なんで? 」
「1人で会わせるわけない。他の男と」
「聞いてた? 」
「だいたい、聞こえた」
「⋯⋯ じゃ、わかったよね。馬鹿な私のこと⋯⋯ 」
その事にスーッと体が冷えた。
黙っていたら、引き寄せられた。
ふわりと軽く、辻本君の腕の中にいて、大きな手で頭をポンポンとされた。
「頑張ったな」
優しい声がする。
辻本君の。こうやって、ささえてくれて、甘やかしてくれる、彼の声と手⋯⋯ 。
「私が⋯⋯ 私の方がおかしかったのかな? 」
と小さく聞いたら、
「そんなわけあるか」
と怒ってくれた。
「話がしたい、」と辻本君は言いながら、時計を見たら10時をすぎていたので、遅くなるから、とそのまま電車に乗った。
結構混雑、お酒を飲んだ人も多くて、車内はシーンとしていたので、黙ったまま、私の降りる駅で辻本君も降りた。
私がホームで立ってたら、
「送るに決まってんだろ」
と言って改札に向かった。