カレシとお付き合い① 辻本君と紬
歩き出してから、辻元君が言った。
「俺はあの男がおかしいと思う。確かに、紬にも、もっとさっさと解決するとか、はっきり言ったらよかった、とか改善点はあったかもしれない。でも、絶対、俺は紬が間違ってるとは思わない」
「私、女子校育ちで、どこか男の子はみんなすごいんだと思い込んでた。女の子のようにいろんな人がいるって初めて分かった。辻本君と話すうちに、先輩とどんだけ違うのか、はっきりわかって、女の子でも男の子でも同じだ、ちゃんとするって事は同じだって思ってる」
自分の見る目のなさも、浅はかさも。
たった1秒の返事で、自分を追い込んだ。
一瞬の何気ない返事で生じる責任。
そのせいで、真っ直ぐに向き合えない状況、後悔や嫌な気持ち。
相手とのズレ。
自分の起こした事は自分で解決しなきゃいけない。
こんな事にならないように、ハッキリ考えて言えるようにしていたい。
待ってくれたこの人に。
道義を通させてくれてありがたかった。
正しく、後ろめたくなく真っ直ぐ生きれるようにしてくれて、ありがたかった。
背中を押してもらって⋯⋯ 。
これでやっと、辻本君の前に立てる。
気持ちいい。
「ずっとひっかかっていたトゲがとれたみたい⋯⋯ 」
と、やっと心から笑えた。
辻本君が優しそうに私を見た。
「だいたい、何考えて付き合おうとか言ってんだ。
告白されて、『わかりました、じゃぁカレですね』って、何のための告白や約束なのか。
相手に気持ちの負担だけ負わせて、責任とるつもりないみたいな。
責任っておかしいけど『付き合おう、2人で歩いて行こう』って事以外に、何のために告白して、何のために気持ちをつなぐ?
相手の事、何も思いやってない。
ムカつくけど、そのおかげで、ノーカウントだから感謝かもな」
辻本君が、立ち止まって私をまっすぐ見て言った。
「全部オレが教えてやるから。オレがちゃんとした初めてのカレシになってやるから」
「よろしくお願いします」
と私のかたくるしい挨拶にも、辻本君はうれしそうに笑った。
やっとはじめられる。
辻本君と。