カレシとお付き合い① 辻本君と紬
♢ 愛しいんだ




 保健室は誰もいなかった。
 私はカーテンをしめて、ベットのところで着替えはじめた。


「元⋯⋯ カノ⋯⋯ ? 」


と、カーテンの中から聞いた、
 あの人と付き合ったんだと心が(しぼ)られるようだった。
 私と正反対みたいな、あの人と⋯⋯ 。


「中学の時、告られて、少しの間付き合ってた」
「そうなんだ⋯⋯ 」


 こんな苦しいんだ⋯⋯ 彼が私の前に付き合ってた人って、私にするように、同じように彼はあの子に接していたんだろうかと、わざと辛いように考えてしまう。
 私の時の先輩の事は、ばかみたいな話で、それでも辻本君は、知らなかった時、こんな苦しい嫉妬(しっと)を感じてくれていたのかな。

 苦しくて痛いな。

 辻本君が、続けた。
聞きたくて聞きたくない、


「でも、なんか、何やっても(ちが)ってイライラして、あっさり別れたんだ」
「うん」
「今日久々に再会して、なんであんな子と、付き合おうと思ったのか不思議にしか思わなかった」
「うん」
「紬に出会ったからかもしれない。前に進んでいるんだ。出会って、分かって、自分が作られていく。変わるんだな」


 でも、辻本君、それじゃ⋯⋯ 。


「私だって⋯⋯ そのうち過去になってしまうかもよ?⋯⋯ 」
「お前のことは愛してるから違うんだよ」


 着替え終わってじっとしていたから、辻元君が、
「終わった?」
と聞いて、カーテンを開けた。

 はい? 辻本君⋯⋯ あ、愛してる⋯⋯ って⋯⋯


「なんで、なんでそんなふうに思ってくれるの?」


と顔を見た瞬間必死で聞いた。
 彼の顔。
 元カノの言い訳でも、未練でもなく、それは私に対する気持ちしか見えなかった。


「わかんないよ、オレも」


と言って、辻本君は息を整えて続けた。
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