カレシとお付き合い① 辻本君と紬
♢ オレは紬にやって欲しい




「紬さ、サッカー部のマネージャーやらない? 」


 辻本君にある日そう言われた。
もうとっくに私は、苗字じゃなくて名前で呼ばれている。

 サッカー部のマネージャーって、私に?

 私は一年の時やっていた図書委員はやるつもりはなかったので、特に何も決めていなかった。
 自分のやりたい事も良く分からなかった。

 今までの私を知っている人、親友の杏ちゃんなんかは驚くだろうな。

 そんなタイプじゃないよって。

 辻本君は同じクラスでサッカー部マネージャーの黒木まいちゃんを呼んだ。


「なー、黒木! マネの仕事、説明してくれない? 」


 少し向こうで同じサッカー部の男子と話をしていた黒木まいちゃんが、


「えっ? ちょ、桜井さん⁈誘ってんの? 」


と、大慌てで転びそうになりながら私の前に来た。
 うっ、びっくりした!

 「なんだって、」と一緒に話していたサッカー部の男子も、あわてて飛んできた。
みんな、興味しんしん。

 なんか、恥ずかしい。
 どうしよう。


「なになに、マジで! ちょっと! 」


と、まいちゃんが驚きながら私をじろじろ見て、他の男子もすごい勢いで私を見る。
 辻本君が、


「まだだから! クラブの仕事内容を説明して欲しい。まあ、俺はそう言うつもりだと思ってくれ! 」


とキリッと返事した。
 まいちゃんが、


「うわー、まじかー、じゃぁ、責任重大だよ」


と丁寧に説明し始めた。

 何がそう言うつもりなのか、責任重大なのか、よく分からなかったけど、一生懸命説明は聞いた。

 本当は興味があったから。

 ずっと(マネージャーやってみたいな)って、誰にも言った事ないけど、実は思っていた。
 出来るわけないし、恥ずかしいし、きっかけもなくて(あきら)めてしまっていたから。

 新しい事に興奮している自分がいる。
一歩、踏み出せるかな。
 その先に、新しい自分に変われるかな⋯⋯ 。

 まいちゃんの話を聞いて、マネージャーの仕事は、すごくやってみたいし、割と得意なんじゃないかなって密かに思った。

 辻本君は、横ですごく熱心にうん、うん、とまいちゃんの話に相槌(あいづち)を打ちながら、私を見て、


「な、紬、出来そうだろ?オレは紬にやって欲しい」


と言った。

 なんか、辻本君から熱意をかんじる。
『私』にやって欲しいんだ⋯⋯ って、ほんとかな、思い違いじゃないかな⋯⋯ 。
 なんでだろう。
 こんな熱心に誘ってくれるなんて、こんなに人に必要みたいにされるの初めてだ。

 あ、また、初めてを辻本君としてる。

 なんだか、ちくっとまた胸が痛む。

 でも、やってみたいと強く思った。
返事をしたら、周りの人にすごく歓迎してもらえた。
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