カレシとお付き合い① 辻本君と紬
♢ 何をそんなに怖がってんの?




「へー、紬って几帳面(きちょうめん)。ノート綺麗な! 」


横から辻本君がノートを見て言った。


「辻本君もわりとノートきれ⋯⋯ 、」
「理玖! 名前で呼べって」
「無理だよ、そんなの」


と姿勢を正した。


「あーまぁ、そーゆー真面目で几帳面なのもいいと思うよ。男子と一線おくって、いいよな? 」


と真剣な顔で目をのぞかれる。
 心の奥まで見るみたいに強く。
しっかりとがっちり視線を合わせて。
 とたんに、ビクっとする心臓。
揺れる心と私の目。

 真面目。
 一線おく。

でも、それなのに、私⋯⋯ 。


「何をそんなに怖がってんの?」
「えっ?」
「紬、もっと自然にココロ見せたら、どんななの?」
「⋯⋯ 」
「ちゃんと見て、オレを」


軽く私の頬に日焼けした指を触れて、もっと目を見ようとする。
 もどかしそうに。
ちょっとイラついたように。
 でもこれ以上ない優しさで。
辻本君の指は少し乾いていて、初めて触れた男の子の手は大きくてがっしりしていて、あたたかい⋯⋯ 。


「おーい、何してんの!」


とまいちゃんが横から話しかけてきた。
 私はあわてて、パッとうつむいた。


「口説いてんだよ」


と辻本君が怒ったみたいに言った。

 黒木まいちゃんは初日にマネージャーの事を説明してくれて、その後からすぐ仲良くなった。
 お昼もサッカーの人と食べている。
女子は、まいちゃんと私。
まいちゃんのカレシの岡本圭太くん、辻本君、あと男子2人。


「そーゆーのは、2人きりでやってくれ〜」


とまいちゃんが言ったので、この場は助かった。
 でも辻本君と2人きりにはなることはないよ⋯⋯
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