秘密のschooldays
ぱっとグラウンドを振り返ると、優斗が楕円のボールを抱えて疾走している。今度はディフェンスのタックルに掴まってしまった。
「ああっ! 優斗、頑張れ!」
「優斗くん、頑張れ!」
思わず芽衣と一緒にグラウンドに向かって叫んでいた。もみくちゃになりながらも、ボールが生かされる。タックルされた優斗も、起き上がってボールを追っている。試合はぐんぐんと展開していった。
「優斗、行っちゃえー!」
「頑張れっ!」
「そこ! タックル!」
流れるボールに、沙耶たちは一生懸命声援を送った。ボールを追いかけ、体がぶつかり合う度に、ベンチやギャラリーから声が沸き起こる。いつの間にか熱中して、握りこぶしを握って応援していた沙耶たちの背後から、太陽の日差しがさんさんと降り注いでいた。やけに背中が暑いな、と感じて振り返ると、丁度崎谷先生が校舎の方からグラウンドの方へ戻ってくるところだった。
(…あれ? 先刻まで、暑くなかったのって……)
沙耶たちの背後に降り注いでいる日差しは、先刻まで崎谷先生が立っていた角度からのものだった。午後の日差しは五月とはいえ、陽が届く分結構強い。沙耶は帽子のつばを持って、それを深く被りなおした。
グラウンドでホイッスルが鳴る。前半が終わったようだった。
「ほら。お前たちも、ちょっと休憩しろ。水も持たないで…」
崎谷先生はそう言って、手に持っていたポカリのペットボトルを差し出してくれた。ちゃんと人数分、三つだ。
「横尾先生も」
「おう、悪いな」
崎谷先生は、ペットボトルを沙耶たちに手渡すと、もう一度校舎の方へ戻ろうとしていた。…最後まで見ていかないのだろうか。
「先生?」
「俺は職員室に戻るから。良かったら後で結果教えてくれや」
そう言って、崎谷先生は手を振った。はあい、と返事をして先生を見送る。…少し、先生のシャツの背中が汗をかいているように見えた。
「…………」
沙耶たちに日陰を作ってくれていた崎谷先生は、ちゃんと水分の補給はしたんだろうか。大人って、色々に気が回るなあ、なんて、思わず感心してしまった。