秘密のschooldays
甘く疼く心
教室に入ると、沙耶は鞄を机の上において、その上に腕を重ねた。なんというか、これからどうしたらいいのかと言う不安を、身体的に何かを抱えることで抑えているような感じだ。鞄の端をきゅっと持って、それを引き寄せ、体に押し付ける。どきどき走っている心臓も、このまま押さえ込まれてしまえばいい。
がらっと大きな音を立てて、崎谷先生が教室に入ってきた。沙耶はとても前を向くことが出来ず、そのまま鞄に視線を落としていた。日直の号令で礼をする。崎谷先生は普段と変わらない声で、今日の連絡事項を伝えて、再び礼をすると崎谷先生は教室から出て行く。今日ほど席が後ろの方で良かったと思ったことはない。つい、篭った息が漏れてしまった。
「………」
一限目が始まるまでの少しの合間に、優斗が沙耶のところへやってきた。先刻グラウンドで挙動不審だった沙耶を訝っているのかもしれない。
「沙耶、先刻、なんだった? 何か用事とかあった?」
優斗は沙耶の机の横まで来て、そう問うた。沙耶は出来るだけ顔に動揺が出ないように、努めて呼吸もゆっくりと、平静を保つようにした。
「ん? ううん。雨降りそうなのに、朝練やってるなあって思っただけよ」
「…? そう? でも、いっつもこのくらいのとき、平気でやってるよ?」
「あ、うん…。でも、私、あんまり練習してるとことか見てなかったから、頑張るなあって思っただけなの」
「そう? ならいーけど」
どうやら優斗に不審がられないで済んだようだ。そのことにほっとする。沙耶は抱えていた鞄から教科書とノートを取り出した。それを見ながら、優斗が思いついたように話しかけてきた。