秘密のschooldays
恋の花咲くとき
どうも心臓が落ち着かなくて困る。だって、昨日のことは、今自分が座っている席で起こったことなのだ。意識しないようにしていても、授業中なんて教室内が静かだし、集中しようとすればするほど頭の中で昨日の感覚とかが蘇ってしまって、本当に困った。
そんな訳で、三限目の体育のときには、もう沙耶はぐったりだった。朝から心臓と頭がフル回転している。しかも、出口のない迷路だ。体を動かしているというのに、時折蘇るこめかみの感覚は、それだけで心拍数が跳ね上がって大変で、なんだかこのまま五十メートルダッシュとか、平気で出来そうな気がする。
「岡本さん!」
体育館のコートの外で、脳内迷路に嵌っていたら、突然自分を呼ぶ声がした。それと同時くらいに頭に勢い良くバスケットボールが当たって、その拍子に沙耶は視界がくらっと歪むのを感じた。
(あ、どうしよ…)
そういえば今日は朝食を食べてこなかった。くらくらする意識と視界を保てずに、ボールが当たったままの勢いで壁に頭をぶつけた。周りがざわっとする中で、沙耶はその場にへたり込んでしまった。
体育の先生が慌てて沙耶の傍に寄ってくる。
「岡本さん、大丈夫? …頭を打ったわね?」
先生が体を支えて立たせてくれる。一瞬平衡感覚が覚束なかったけど、なんとか立ち上がることが出来た。ボールがぶつかったのは額の上で、壁に打ちつけたのは後頭部だった。念の為に保健委員が呼ばれて、沙耶は彼女に付き添ってもらって保健室に行くことになった。…ちょっとずるいけど、思考も疲れているし、昨夜も眠れていないから、少し寝かせてもらおう。寝たからといって問題が解決するわけじゃないけど、こんなに体力を消耗していては帰りまで体がもたない。少し逃げるだけだから、と自分に言い訳した。