秘密のschooldays
空を見つめながら、先生が言う。もしかして、傘を持ってきていないのだろうか。こんな梅雨の最中に傘を持たないなんて、ちょっと考えられないけど、もしそうだったら、濡れて帰るのだろうか…。
(…でも、学校から傘に入れてあげるのは、出来ないし……)
先生の帰りを心配していたら、よし、最後の答え合わせ、と言われて、慌てて視線をノートに戻した。問いに対しての公式の使い方と、計算式の見直し、解答のチェックを終えると、丁度チャイムが鳴った。いいタイミング、と言う感じで、先生も教材をぱたんと閉じた。
「じゃあ、今日はここまでにしておこうか」
「ありがとうございました」
「ありがとうございました」
座ったまま礼をして、そして教科書を片付け始める。沙耶がノートを鞄に仕舞っていたら、隣の席に座った芽衣が肩を叩いてきて、先に帰るね、と下手なウインクを寄越してきた。
…少し恥ずかしく思いつつも、結局今日も、芽衣の好意に甘えてしまう。
じゃあ、また明日―、と手を振りながら教室を出て行く芽衣を見送ると、先生はまた窓際に立って外を見つめていた。
「…先生、傘、持ってきてないんですか?」
「うん?」
沙耶の問いに、先生が教室内を振り向く。
「だって、先刻から外ばっかり気にしてますよ?」
外っていうよりも、グラウンドの方かもしれない。空を見上げていたようには見えなかったような気もする。
「ん? ああ、ちょっとな」
先生が、言葉に含みを持たせる。何かを内緒にされているような気がして、沙耶は気になってしまった。
もしかすると、そんな気持ちのまま、じっと崎谷先生を見つめてしまっていたかもしれない。先生の表情が一瞬解けて、それから少し企みのあるような顔でにやっと笑った。
「……なに? そんなに気になる?」
意地悪な声音。こうやって先生は沙耶のことをからかうのだ。でも、沙耶も恥ずかしく思いつつも、教室の先生とは違うそんな顔を見れて、ちょっとどきどきしてしまう。
「………なりますよ…。…そりゃ……」
なかなかこういうやり取りになれないけれど、それでもこんな風に応えることも出来るようになってきた。一生懸命に沙耶が返事をしたら、崎谷先生はふわっと笑った。そして、窓際を離れて沙耶の座っている机に手を付いた。