秘密のschooldays
近くから、見下ろされる。少し長めの前髪が沙耶の額に触れそうだった。黒目がちの瞳がじっと沙耶のことを見つめてきて、視線を逸らすなんて勿体無いこと、思いつきもしなかった。先生が、かたんと眼鏡を外す。
「…いいな、こういうの」
「……え?」
「沙耶がどんどん俺のものになればいい」
至近距離で熱を孕んだように囁かれて、心臓がどきどきした。ゆっくりと先生の手が沙耶の頬に触れて、鼻筋の通った綺麗な顔が近づいてくる。
……心臓を鳴らしたまま、ゆっくりと目を閉じた。あたたかい感触が掠めるように唇に触れたとき、廊下から喧嘩のような声がして、いきなりがらっと教室の扉が開いた。
「…………っ!」
「………、……」
沙耶は咄嗟に先生の手を逃れて身を離した。でも、立ち上がることは出来なくて、先生との体の距離は隠せなかった。
扉を開けて、肩で息をしているのは優斗だった。その優斗を後ろから押さえようとしている芽衣の姿もあった。
「沙耶…っ!」
優斗は叫ぶように沙耶を呼ぶと、走らんばかりの勢いで教室の中に入ってきた。引き摺られるようにして芽衣も教室に入ってくる。
「優斗くんっ! だから、本人の気持ちなんだから、仕方ないでしょっ!」
いくら長身の芽衣でも、男子の優斗は抑えられない。
「沙耶、なんでだよ! 約束したじゃんかっ!」
優斗が顔を歪めている。突然のことに沙耶が動けないでいるのも構わずに、優斗はどうして、と繰り返した。
…見られた。秘密にしておかなきゃいけなかったのに…。優斗にこんな顔までさせて…。
沙耶は、動くことも言葉を発することも出来なかった。更に優斗が沙耶に詰め寄ろうとしたときに、沙耶と優斗の間に先生がすいっと割って入った。
「先生! アンタ教師なんだろ!? 生徒にそんなことしても良いと思ってるのか!? 遊ぶだけだったら、適当な人、見つければいいだろっ!」
優斗の言葉は怒号に近かった。言葉に宿る敵意が、崎谷先生に真っ直ぐ向かっているようで、沙耶は胸が軋むようだった。
「違うの、優斗…っ。先生は悪くないのっ。……私が…」