余命38日、きみに明日をあげる。
もう高校生なんだから飯くらい自分でどうにかすると言っているのに、いいからいいからって。
冷蔵庫を開け、中身をチェックする。
薄力粉にバターに卵。昔と同様、店で使っている材料が今でも常備されていた。
「よし、これなら大丈夫だな」
材料を確認すると、俺は腕まくりをして薄力粉を振るい始めた。
はじめて莉緒に作った菓子は、マドレーヌ。
短時間で作れ、これなら失敗しないだろうと、父さんから初めて教わったものだ。
それ以来、莉緒の大好物はマドレーヌらしい。今はどうか知らないけれど。
さらさらな白い粉が舞う。
父さんと一緒に、ここで菓子作りをしたのが昨日のことみたいだ。
懐かしさで、目頭が熱くなった。
材料の配分も工程も、体が覚えていた。
薄力粉と砂糖を合わせてから卵を混ぜる。最後にバターを入れたら完成。