余命38日、きみに明日をあげる。
やがて生地が完成。マドレーヌ型に流し込み、オーブンへ。
しばらくすると、キッチンに甘い香りが広がってきた。
体によくなじんだこの香りを嗅ぐのは久しぶり。
俺が医者を目指すと言ってから、この家のキッチンで菓子が作られることはなかったからだ。
結局今日は、莉緒と話さなかった。
莉緒とこんな風に気まずくなったのは初めてかもしれない。
「ごめん」って言うのは違う。
なら、自然と莉緒が笑顔になれること。
そう考えた時、真っ先に思い浮かんだのが、俺がお菓子を作ることだったんだ。
俺が作ったお菓子で喜ぶ莉緒の顔が好きだった。
お菓子を作っている時間は、とても幸せなんだ。そう、今もそうだ。
楽しくて、幸せでたまらない。
俺が、本当にやりたいことは……。
ピーーー。
オーブンが焼き上がりを告げ、現実に引き戻される。