余命38日、きみに明日をあげる。

「よお」

「えっ……」

昨日に続き、少しびっくりしたような顔を見せた莉緒だが、俺は構わず中へ入った。

するとその顔が緩み、鼻をひくひくさせる。原因は、俺の持っている紙袋だ。

どうやら、出来立てのマドレーヌが自己主張しているらしい。

6畳ほどのこの部屋は、あっという間にマドレーヌの香りに包まれていた。

「これ」

心臓がバクバク言ってる。

お菓子ひとつ渡すだけで、こんなに緊張するなんて。

「う、うん……」

おずおずと、マドレーヌの入った紙袋を差し出すと。

「おばさん、から……?」

「いや……」

「え?」

「……俺が作ったんだ」

「……っ」

莉緒が息をのむ。

『琉生の作ったお菓子が食べたいなぁ』

この間、莉緒がポツリとこぼした言葉が、俺の中にずっと住み着いていたんだ。
< 170 / 288 >

この作品をシェア

pagetop