余命38日、きみに明日をあげる。
『一つ食べちゃったわよ』
なんて、母親はあっけらかんと言い、親父は慌てて顔の前に新聞を広げ始めたが、
逆さまだった。
口では言わないが、親父もなにか思うところがあったんだろう。
思い出して顔がニヤケそうになったとき、トーヤがふいに言葉を落とした。
「薄くなっている」
淡々と言葉を落とすその意味が最初は分からなかったが、トーヤの手元に視線を動かし、手帳を持っていることに気づいた俺は、ベッドから飛び降りた。
「マジかよっ!」
リストに書かれた莉緒の名前のことだとわかったからだ。
「おそらく、一つの願いが叶えられたんだろう」
「それって……」
俺は目を見開いて、トーヤを凝視する。
そうだ、と言いたそうに俺を見つめ返すトーヤ。
「マドレーヌ……」
うそだろ……?
俺のお菓子を食べることが、莉緒の死ぬまでに叶えたいことだったのか……?
これは、莉緒と仲直りするためにシンプルに考えただけだった。