余命38日、きみに明日をあげる。

悩める進路


変な態勢で寝ていたからか、体が痛い。ついでに、首も痛い。誰かにきつく締めあげられたような痛さだ。
 
……やっぱりあれは夢じゃなかったのか?

家に帰ると、すでに父さんは仕事に出かけていた。
 
我が家の朝は早い。父さんが、近所で洋菓子店を営んでいるのだ。
 
自宅のある住宅街を抜けたところにある大通り沿いに、店を構えている。

【bonheur】(ボヌール)という名前で、フランス語で幸せって意味だ。
 
フランスでの修業経験もあり、俺が生まれて間もなく自分の店を構え、すぐ人気店になった。
 
ありがたいことに雑誌に掲載されたり、テレビの取材が来ることもある。

かなり繁盛しているらしい。

らしい……というのは、もう俺はここ数年、店に足を運んでいないから。 

「また一晩中病院にいたの?」

ダイニングテーブルに着いた俺に、思った通りの母さんの言葉。

やめろとは言わないが、きっと呆れられている。
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