余命38日、きみに明日をあげる。
俺を追い抜かしていった人が、奇妙な顔で振りかえった。
他人には、俺ひとりしか見えていないのだから当然だ。
けれど、そんなのどうでもよかった。変人に思われようが関係ない。
「だったらあきらめるのか?」
淡々と落ちるトーヤの声。
「ひとつ叶えたんだろ。そのときのように考えればきっとわかる」
フードからわずかに覗く瞳がキラリと光った。
シンプルに考えた結果、願いのひとつは俺の作った菓子を食べることだった。
でもそれは、願いを叶えようとしたわけではなく、偶然が重なっただけだ。
「倉木莉緒の心臓は、もう限界に近づいてきている」
「んなの言われなくてもわかってるっ……!」
頻繁に起きる発作。弱音を口にする莉緒。
心臓だけじゃない、莉緒自身も弱っている。それがすべてを物語っている。
「よく考えるんだな。あと、13日だ」
俺の手を静かに離したトーヤは、追い打ちをかけるような言葉を残し、俺に背を向け歩いていく。そして、闇に紛れて消えた。