余命38日、きみに明日をあげる。
「パティシエになるには必要はないかもしれないけれど、俺には必要なんだ」
それからでも遅くはないだろう。
いつの間にかテレビの音は消えていた。
俺たちの会話を聞いた母さんが消したらしい。父さんの隣で、心配そうな顔でこの様子を見守っていた。
父さんが、深く息を吐く。
「分かった。琉生の人生だ。琉生の思うようにしなさい」
かみしめるようにそう言い、何度も何度もうなずいた。
刻まれたシワの溝を深くして、目を細めながら。
「……父さん……」
「この一言を言ってやれなくて、悪かった。思っていたのに、なかなか言い出せなかった。父さんはお菓子作りしか脳がないから、こういうとき息子にどう話せばいいかわからなかったんだ。親父失格だ、情けないな」
後悔を滲ませながら訴える父さんに、俺は首を振った。