余命38日、きみに明日をあげる。
それは俺だって同じだ。
おもちゃを買ってもらえないガキのようにふてくされて。
いやだいやだと喚きながら気持ちをぶつけるならまだしも、思っていることを伝えようとも、わかってもらう努力もしなかった。そっちの方がタチが悪い。
「俺だって、話を聞く態度じゃなかったと思う。父さんの気持ちも知らずに、ただひねくれて。ごめん」
溝は深くなる一方で、ガキな俺はその修復方法さえわからなかった。
顔を上げると、父さんは笑っていた。
「うまかったぞ」
「え?」
「マドレーヌ」
……食ったのかよ。
フッと笑いが込み上げてきたと同時に、鼻の奥がツンと痛くなった。
俺のお菓子なんて絶対に食べないと思っていたのに。
なに食ってんだよ……。
「パティシエの道も甘くはないぞ」
「わかってる」
「俺の店があるからって甘えは許さんぞ」
「わかってる」
やべえ、鼻水が垂れてきた。
すすり上げるなんてかっこ悪いことが出来なくて、一度だけ大きく鼻をすすった。