余命38日、きみに明日をあげる。
「悪かったな。ずっと隠していて」
トーヤの目には、悲しみの色が滲んでいた。
今までフードで目を見せなかったのは、俺に嘘がバレるのを恐れていたのではないか。
フードで隠したその目は、いつも罪悪感の色をまとっていたのかもしれない。
「……莉緒は? 莉緒はどうなるんだ」
見届けることのできない莉緒のこれからを知りたい。
「琉生の心臓が、移植されることになる」
「俺の心臓が……?」
莉緒が助かるなら、俺の心臓を差し出してもいいと思ったその思いに嘘はない。
それを聞いてどこか安心している俺は、もう自分の運命を受け入れ始めているのかもしれない。
「莉緒が生き延びるなら、それでいい……」
でも、出来ることなら二人で生きたかった……。
そんな願いは、贅沢すぎるだろうか。
「なあ、トーヤ」
「……なんだ?」
トーヤには珍しく、俺に気を使ったような声。
ようやくトーヤの本質がわかった。胡散臭い、感情のないいけ好かない男ではなかった。
きっと、誰よりもちゃんと感情があって。ちゃんとこの仕事に誇りを持っているのだと。
『寿命を迎えた者に敬意を表し、成仏できるようにと願いながら、大事に魂を運んでいる』
最初に言っていた通り、きっとその言葉に嘘はないんだろう。
だから、初めてこう思えた。
「俺、トーヤになら魂持っていかれてもいいよ」
「……」
「へますんなよ」
「……すると思うか?」
誰よりも……というか、トーヤとナオしか知らないが、トーヤのことは信頼している。
一緒に過ごした1ヶ月、トーヤは口は悪いが間違ったことは言わなかった。
トーヤがいたから、俺は変われたんだ。
「……思わないよ」
だから、俺の担当がトーヤでよかった。
見上げた空は青く、目に染みた。