余命38日、きみに明日をあげる。

「早く食べちゃいなさい」

ゆっくり飯を口に運んでいると、忙しそうに動く母さんが、横から口を出してくる。

これはいつもの朝の食卓の風景。

うるさいと思っていた小言を聞くのも今日が最後か。

そう思ったらその小言さえ愛おしく感じた。

「父さんは?」

「なに言ってるの? もうお店に決まってるでしょ。今日までクリスマスなんだから忙しいのよ」

「そっか」

昨日のイブ、店は大行列だったらしい。

今日もまたそれが続くのだろう。

毎日、俺が起きてくるころには父さんは店に行き、夜遅くに帰って来る。

どんなに店が有名になっても、繁盛しても、現状に満足することなく。

常に常に新しいお菓子のアイデアを考え続ける貪欲な人で。

そして、努力の人。

跡を継ぐって言ったばかりなのに……ごめん。

そんな父さんを、ずっと支えてきた母さん。
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