余命38日、きみに明日をあげる。
「……ナオ」
むき出しのままの、やわらかい猫っ毛を撫でた。
「フード、被らないとトーヤにまた叱られるぞ」
肩にかけられたフードをそっと被せた。
「……ですよね」
ナオはずずっと豪快に鼻をすすると、泣き笑いした。
これからも、ナオは死の神として生きていくんだろう。
トーヤはいないけれど、一人前の死の神になれるかどうか、トーヤも心配しているはずだ。
ナオよりも、誰よりも。
人一倍情に厚いのは、トーヤ、お前のほうだったじゃないか。
「私、がんばります……」
ナオの細い声が聞こえた。
「先輩はいなくなっちゃったけど……琉生さんと莉緒さんのことは……私が引き継ぎます」
「え?」
「そしていつか、その時が来たら、私がおふたりの魂を運びます」
ナオの瞳は、新たな決意にあふれていた。
俺は確信していた。きっとナオは、立派な死の神になる。
「……わかった。そのときは、頼むな」
「琉生くんっ!」
その時、莉緒の母親が談話室に飛び込んできた。
「手術、無事に成功したって……っ」
嬉しい報せは、俺とナオに、また別の涙を生ませた。
俺たちは、人知れず目を合わせて、微笑んだ。