余命38日、きみに明日をあげる。
誰かコイツを、ふざけたことを言うコイツを、早くつまみだしてくれ……!
興奮している俺とは対照的に、男は、冷えた廊下によく似合う表情のない顔をしている。
それが余計にイライラを募らせる。男は、静かに言葉を落とした。
「俺の姿はほかの人間には見えない。お前がここで大声を出しても、一人で騒いで頭がおかしくなったと通報されるだけだぞ」
「……っ」
今度は反対に、俺がダンッと、背中を壁にたたきつけられた。
思いのほか、力が強かった。俺が顔をゆがめても男は力を緩めない。
形勢は完全に逆転だ。
そのまま、体が浮き上がる。どんな力だ。
く、苦しい。息が出来ない……。
このまま俺は死ぬのか……?
そこへ、パタパタと慌てたように看護師が走ってきた。
懐中電灯に照らされて、思わず目を細める。
その瞬間、床に足がついた。男の手が離れたのだ。
肺の中に空気が一気に入り、俺はゲホゲホとせき込んだ。
「どうかしましたか?」
「えっ……」
俺は体を丸めたまま、顔だけを上げる。