余命38日、きみに明日をあげる。
至福の時間
真っ白な外壁に、おしゃれなオレンジ色の暖簾。
筆記体で「bonheur」の文字。
フランス語で、幸せという意味。
数えきれないほど通っているこのお店は、琉生のお父さんが経営している洋菓子店。
この界隈に住んでいる人たちには、誕生日やクリスマスといえばbonheurというほど、人気のお店。
知り合いのお店というひいき目を抜いても、このお店の美味しさに勝る洋菓子店を私は知らない。
文字通り、このお店は私を幸せにしてくれる。
──カランカラン。
西洋の館を思わせるような扉を開くと、バターのいい香りが私を出迎えてくれた。
何度来ても、幸せな気分になる瞬間。
「あら莉緒ちゃん、いらっしゃい」
すぐに私に気づいて駆け寄ってきてくれたのは、琉生のお母さん。
「入院したって聞いたけど……体の方はもう大丈夫?」
「はい、もう大丈夫です。ご心配かけてすみません。あ……琉生にもまた来てもらっちゃったみたいで……」