余命38日、きみに明日をあげる。
莉緒が莉緒じゃないみたいだ。頬は紅潮して、声も上ずっている。
緊張しているのが伝って、俺まで手のひらに汗が滲んできた。
「そうだったの。それはありがとう」
そして、横にいたマネージャーらしき人に「ペンある?」と声をかけ、黒いマジックを受け取ると。
「サインしてもいい?」
と、サクラ。
「は、はい。もちろんですっ……」
慌てて莉緒が写真集を取り出し、受け取ったサクラは本の表紙にサラサラとサインを書いた。
顔が隠れない位置に、筆記体でかっこよく。
あっという間に、高価な一冊に生まれ変わる。
「あっ、ありがとうございますっ! 一生大切にしますっ!」
サクラは莉緒の言葉ににこりと笑うと、マネージャーに促されて、横付けしていた車に乗り込んだ。
その様子を見送り、しばしその場に立ち尽くす莉緒。
魂が抜かれたような……というのは、こういうときの比喩のような気がする。今の莉緒にはシャレにならないけれど。