余命38日、きみに明日をあげる。
ブォォォン。
大きな音とともに、来るはずのない物体が視界の端に映った。
「──莉緒っ……!」
信号を無視したバイクが突っ込んできたのだ。
「きゃっ……!!」
俺は咄嗟に手を伸ばし、莉緒の腕を引っ張り胸の中へ抱き留める。
そのわきを、キュルキュルと激しい音をたてて横滑りしながら通過していくバイク。
その後、転倒を回避したバイクが、なんとか態勢を立て直しているのが目に入る。
「気をつけろよっ!!!」
聞こえているのかいないのか。俺の声をかき消すようなエンジン音を立てて、バイクはそのまま走り去ってしまった。
人の多い夕方の交差点は、一気に騒然とする。
なんだよ、今の……。
莉緒がひかれていたらと考えただけでゾッとする。
今さら、膝がガクガク震えてきた。
交差点のその向こう。行きかう人並みの中で、黒づくめの男が俺たちをじっと見つめていた。
トーヤだ。
トーヤが告げたその日まではまだ時間がある。
なのにそれを予期させるような事象に、俺はパニックになった。
しかも、心臓病に起因せず、事故だなんて。
そんなことがあってたまるか。
莉緒を胸に抱き留めたまま、俺はトーヤをじっと睨み返した。