初めて泣きたくなるくらい好きになった
「吉田先生、お疲れ様です。」
 羽田先生が、吉田先生に挨拶をした。吉田先生は、笑顔で「お疲れ様です〜」と少し甲高い声で返した。
 
 吉田先生は、わたしが高校3年生の時に英語を良く見てくれていた。でも、授業中、他の男の先生と話しては、授業に全然身が入っておらず、嫌な女性の先生だという印象が強く、少々苦手だ。しかし、笑顔が可愛く、とても綺麗な大人の人という感じなので、なんだか男の人からは好感度が高いだろうなと思う。

「井上ちゃん、スーツ似合うね!」

 なんて褒めてくれるからうっかり好感持ちそうになる。「ありがとうございます〜!」と返したが、そういえば吉田先生は、わたしの先輩に当たるのかと思うと挨拶をした方が良いかと思い、お辞儀をする。

「実は、ヒナ塾の講師になります。色々とお世話になるとは思います、よろしくお願いします!」
「え、ここの教室で?」

 吉田先生が驚いた顔をして、質問をしてくれたので頭を上げ丁寧に返事をする。

「いえ、隣の区にある、松田教室です!」
「あれ、松田教室っていうと、」

 吉田先生が羽田先生の方に顔を向けながら言うと、羽田先生が「そう」と言いながら、「俺が副教室長だよ」と返す。自分がお世話になっていた人の部下になるなんて、人生何が起きるか分からないよなぁなんてついついわたしは笑ってしまう。


 いわゆる、ここ曽我教室の教室長が羽田先生であり、松田教室の教室長が副教室長であって、松田教室の副教室長が羽田先生という、立場がトレードになっている。なので、これから働く松田教室長の野木先生は、わたしが生徒時代だった時にお世話になっていた事もあるが、羽田先生との絡みが多かった為、あまり野木先生とは絡みがなく、あまりどういう人間か分からないでいる。


「そういえばさ、井上ちゃん、西谷先生と会ったの?」

 胸がどきりと鳴った。

「いえ、全然会えなくて。出勤してますか?」

 受験が終わり、塾にくる用もなかったが、西谷先生に会いたいという理由で、合格発表まで教室に通っていたが、なかなか会うことがなかった。合格発表が終わってからは、遊びや何やらで忙しく、教室に来れなかった。

「いやさ〜、すごい彼女と仲良さそうだから、あまり出勤出来なさそうよ〜」

 え

「あれ、知らなかった?」

 多分、「え」というのが口からもれてたんだろう、吉田先生が驚いていた。

 憧れていた人に彼女がいたことに寂しさを感じた。
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