ありきたりの恋の話ですが、忘れられない恋です
だからといって、車を止めておろしてくれる気はないらしい。
助手席の前にあるボックスから、ラッピングされた小さめの箱を後ろにポイと投げてきて、慌ててそれを受け取った。
「向こうのエステシャンが使ってるボディークリームだってよ」
「あっ、ありがとう」
晶兄にお礼をいうのも変だけどね。
「そうじゃなくて、私、この後予定あるって言ったよね」
「そこまでおくってく」
「どこ」と聞かれて、素直に飲み屋が並ぶ永楽町と答えていた。
気まずい雰囲気に、先に口を開いたのは私。
「どうして晶兄がお土産持ってきたの?」
「ノンちゃんときちんと話をしたくて」
「この前、話したよ」
「そういう話じゃない。今度、俺と2人きりで話をする時間を作ってほしい」
バックミラー越しに切ない目で見つめられ、ドキリと胸が締めつけられた。
どうしてそんな表情するの?
まるで、私が悪いみたいじゃない。
「なんの話か知らないけど、誤解されるから2人きりはまずいよ」
晶兄の奥さんが知ったら、気分悪くするって…
急にブレーキが踏まれ、晶兄が後ろを振り向いた。
「突然、急ブレーキは危ないって」
「誤解されるような相手がいるのか?」
私はいないけど、晶兄にはいるでしょ!
悔しいから言わないけど…