ありきたりの恋の話ですが、忘れられない恋です
「あなたが篠原 望愛?」
「そうですけど、どなたですか?」
「私、海堂 晶斗の妻です」
その途端、驚きを隠せずに体が逃げようとして、足を一歩後ろに出した。
「待ちなさいよ。逃がさないわよ」
バチンと頬を叩かれて、グッと腕を掴まれ乱暴に髪を掴まれてしまった。
なんとも間抜けな姿勢になってると思うが、今はそんなこと気にしてる余裕なんてない。
「人の夫に手を出してどういうつもり?あなたのせいで、うちはめちゃくちゃよ。どんな手を使って誘惑したのよ、この泥棒猫」
髪を引っ張り、グラグラと頭を揺らす彼女に無我夢中で抵抗を試みるが、細身の体のどこからその力が出てくるのかわからないほど敵わなかった。
されるがまま、恐怖に体が震え出していた。
やはり、不毛な恋に罰が当たったのだ。
「今更、どうしてあなたなのよ。待っていれば彼が戻ってくるはずだったのに、あなたのせいで…ねぇ、別れてよ。別れなさいよ」
体を更に揺すられ、頭がクラクラとしてくる。
「あなたのせいで彼の子供を流産したのよ。そのせいでもう子供が産めないのよ。それなのに、晶斗まで奪うの⁈そんなの許さない」
外で女同士が揉み合い、一方的に怒鳴られてる姿に、ご近所さんが通報したらしく、パトカーが到着した。