ありきたりの恋の話ですが、忘れられない恋です
ぎゅっと私を抱きしめて、何も言わずに涙を流す私に寄り添ってくれた。
翌日、頬を腫らして職場へ。
みんな、興味深そうに視線を交わしていたが、気がつかないふりをしていた。ただ、一人、小倉さんは「その頬、どうしたの?」と聞いてきたので、「ドアの取っ手にぶつけたんです」と、冷たく言い放ち、しらを切り通した。
やり場のない、鬱憤を彼女にぶつけても、気持ちはスッキリとはしない。
今日の夜、彼は家に来るだろう。
その時、別れを告げるのだと決意しないと、別れられないほど、彼の存在は大きくなっていたのだ。
仕事を終えて、マンションまで歩いていると私の部屋に灯りがついているのが見えていた。
まさかと、足は勝手にマンションまで走り出していく。
ドアの取っ手に手をかけると、ガチャとドアが開いた。
「おかえり」
「…ただいま」
腕を広げて、いつものように私が飛びつくのを待っている晶斗の横を通り過ぎる。
「望愛…ちゃんと話をしよう」
「いや、なんの話をするのよ。私、もう、晶斗と別れる」
そういいながら、涙を流している。
そんな私を強く抱きしめる晶斗の腕の中でもがいた。
「私より奥さんが大事なんでしょ!」