愛は知っていた【完】
「好きな人……他にいるんだよね?」
「え?」
「輝雪さ、あたしのことあんまり見てくれてなかったでしょ?でもあたしは輝幸をずっと見てたから、分かるの」


後悔だけはしないようにね。
そう付け足した彼女の笑顔はどこか寂しげで、俺はまた胸が締め付けられた。

こんなに献身的な女をフるなんて、俺も良い身分だ。
自分のやったことへの罪悪感や自己嫌悪が渦巻いて気分が悪くなった。
このまま午後の授業を受けても集中できないだろうし、そもそも自習になっているはずだからいっそ早退してしまおう。

そう決めて一足先に帰路についた俺は、まだ誰も帰ってきていない自宅で睡眠でもとることにした。
しかし眠りにつく前に家の玄関から物音がして、階段を駆け上がってくる足音がどんどん大きくなっていったものだから、俺は慌てて仰向けにしていた上半身を起こした。

勢い良く開かれたドアの向こうにいたのは、呼吸を荒くした朱里だった。
走って帰ってきたのだろうか、髪も乱れているし、冷たい外気に触れたせいで頬も鼻のてっぺんも赤く染まっている。
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