愛は知っていた【完】
「別れたってほんと……?」


ベッドに腰かけたままの俺の前に来るなり朱里は確かにそう言った。
大方本人から聞いたのだろう。
女ってのはどうしてこうも情報の伝達が恐ろしく迅速なのか。

首を縦に振った俺を見据えたまま朱里は続ける。


「それと、お兄ちゃん遠くの高校に行っちゃうって……」
「ああ」
「どうして黙ってたの!?」


何も言い返せなかった。
両親になるだけギリギリまで朱里には伝えないでくれと頭を下げたのも、俺自身が黙っていたのも、全部自分が臆病なせいだ。

どこかで期待していた。
朱里が寂しがって、行かないでって引き止めようとするんじゃないかって。
昔鬼ごっこをしていた時みたいに、先を行く俺の後ろから「待って」と一生懸命追いかけてきていた朱里を思い出して、自分が涙を流すのが怖かった。
本当は離れたくなんかないから。

でもそれは望んじゃいけないことだって分かっていたから。
矛盾だらけでもう自分の欲を制御できそうになかった。
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