愛は知っていた【完】
「あっちで新しい彼女できたら教えてよね」
「新生活に慣れるまでそんな余裕ないと思うけど」
「あはは、それもそうだ」
「高校でもいち早くレギュラーになれるよう頑張らなきゃいけないからな」
「うん、頑張ってね!応援してる!」
「ああ」


そうやってとびっきりの笑顔と共に差し出した両手を握ってくれたお兄ちゃんは、とても希望に満ち溢れた顔をしていて、特にキラキラと光を宿した瞳なんかは、新たな旅立ちを控えている者に相応しい輝きだった。

繋がれた手に舞い降りた淡雪は、体温で音も立てずに水滴となる。
その水滴に混じるかのように零れ落ちた雫は、紛れもなく私の瞳から出た塩味で。
堪え切れずに泣いてしまった私は、笑いたいのにくしゃりと歪んでしまった情けない表情を隠すべく俯いたのだけれど、頭上に置かれた優しげな温もりにより一層感極まり、遂にはしゃっくりを上げながら泣く羽目に。

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