愛は知っていた【完】



「輝雪ー、見て見て!イルミネーションすっごく綺麗!」


冬が来ると思い出す。あの一夜のことを。
同じ道内でも俺の生まれ育った田舎と違い、都会では冷たい白雪が一帯を埋め尽くすような景色はめったに見られなかった。
それだけ建物も多く、人の手によって積雪の対策がされているというわけだ。
それでも吐息は白く濁り、ひんやりとした風が衣服の間をすり抜ける度に身震いする。

今日はクリスマスイヴということもあり彼女とデートに来ていた。
映画を見たりショッピングをしたり、ありきたりなことではあったが、隣を歩く彼女は俺の手を握り満足そうに微笑んでいる。
片や俺はといえば、ぼんやりと幼少の頃の記憶を脳内で巡らせていた。

まだサンタクロースの存在を信じていた純真無垢だったあの頃、クリスマスイヴの夜は朱里もちょっと手伝った母さんお手製のホールケーキをみんなで食べて、サンタが来るのだから早く寝なさいと両親から急かされたにも関わらず、二人で一緒の布団に入り近くに大きな靴下を置いては、サンタを捕まえよう等と計画を立てたりした。
まぁ最終的にはいつの間にか寝てしまっていたのだが、朝起きてプレゼントを手に小躍りする朱里のあどけない姿は天使そのもので。
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