愛は知っていた【完】
どうしてだ朱里。なぜ拒まない?
お前がこの手を振り払って、ただ一言「やめて」と声を上げれば、それが俺にとって最大の効力を果たすブレーキになるというのに。


「お兄ちゃん……いいよ……」


なのにどうしてそんなことを言うんだ。
絞り出したような朱里のか細い声で、俺の理性は容易く崩壊してしまった。

朱里のせいにするなんて責任転嫁も大概にしろと言いたくなる。
元からこうしたい願望があったくせに。
俺はヘドが出るほどの愚か者だ。
同じにされた馬と鹿が可哀想なほどの馬鹿野郎だ。

けれど、そんな奴でも愛してくれている朱里がいるから、俺はこの愚行に歯止めをかけたくなくなる。
これが背徳の道だと分かっていても、朱里が隣を歩いてくれるのであれば、そこにある幸福を求めて無我夢中で前進したくなる。

こうして俺達は二度目の禁忌を犯した。
そしていつまでも終止符を打てずにいる二人の関係はこれより数年に渡り続くこととなる。
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