愛は知っていた【完】
今日もまた俺の住むアパートに遊びに来ていた朱里は、自分で買ってきた苺大福を頬張りながら、俺が写真の整理に使っているパソコンのディスプレイを覗き込んでいる。
その横顔を見ていると、随分大人っぽくなったなぁと時の経過を感じずにはいられない。
それは自分自身にも言えることではあるが。

薄っすらと化粧をして、着る服も落ち着きのあるものが増えて、以前俺が実家に戻った時に見せてもらった成人式の振袖姿も、普段仕事で着ている制服姿も、どれも魅力的であることに変わりはない。
いくつになっても朱里は俺が一番の愛を注ぐ対象なのだから。

しかし忘れていた頃に突き付けられる事実もある。
それもまた一生揺るぐことの無い、言わば因縁のような存在だった。


「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「好きだよ」
「……俺もだ」


ふとした瞬間、この「お兄ちゃん」という言葉から胸を引き裂かれるような悲痛を受けるのだ。
いつもはそう呼ばれることに癒しや喜びを抱くというのに。
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