愛は知っていた【完】



「知ってたよ。彼女がいるってことも、その彼女さんがどういう人なのかも、全部」


彼女と別れて間もなく到着したファミレスにて、朱里は自分の行いを洗い浚い明かしてきたのだ。
俺のふとした隙を狙って、携帯や引き出しの中を覗いていたこと。
そうして彼女に関わる大体の情報を得ていたこと。
秘密を隠すことに不用心だった俺は、こんな形でも朱里に感付いてもらうことを心の片隅で望んでいたのかもしれない。


「ごめんなさい」


謝罪の言葉と共に申し訳なさそうに頭を下げた朱里には、謝るのは真実を隠していたこちらなのではないかと困惑してしまう。
ただ朱里が思いの外冷静なものだから、まさかそちら側にも秘め事があるのかと怪しんだ俺に、案の定白状された事実には驚愕のあまり持っていたフォークを落としそうになった。
家族連れが多いこの場でするには随分重い話な気もする。

実は朱里にも長いこと交際している彼氏がいて、しかも年内に籍を入れる予定まで立てているという。
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