愛は知っていた【完】
わなわなと揺れ動く指でどういう意味か訪ねたメッセージを返したのだが、返事は一向にくる気配を見せない。
待っている時間がもどかしくて、そのうち焦燥感でどうにかなってしまいそうになった俺にトドメをさしたのは、返信からおよそ一時間後にきた一通のメッセージだった。

“私白井さんと付き合うことになったから、もうお兄ちゃんとはそういうことできないの。さようなら”

朱里の声で再生されたその文章に酷く絶望した。

……俺はなんて最低な人間なのだろう。
幾度となく考えたことはあったが、ここまで自分を恨んだのは未だかつてない。
朱里をこんなにも苦しませていた。
自分を傷付けるまで追い込んでいた。
なのに朱里は俺に眩しいくらいの笑顔を見せてくれていた。
それに気が付かず、愚かな俺は朱里を求めて粗末な独り善がりに満足していた。
なにが相思相愛だ。こんなの、恋人ととしてどころか兄としても失格じゃないか。

今まで抱いてきた理想や願望、浅はかな夢が音を立てて崩れていく。
ちっぽけな未来を描いていた場所には瓦礫の山ができていて、俺はその下で息絶えそうになっていた。
いずれ俺が迎えるのは報われないエンディングなのだと、しつこいほど言い聞かせていたが、こんな歪んだ形だなんてあんまりだ。

不思議なことに涙は出てこない。
代わりに乾いた笑いだけが粛然たる空間に渦巻いていった。
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