愛は知っていた【完】
「ねー、お兄ちゃん」
「その呼び方いい加減やめろよ。赤の他人に聞かれたら誤解されるかもしれないだろ」
「えー。だってお兄ちゃんは私のお兄ちゃんだもん。大丈夫、家の外では言わないように気をつけてるから!それとも輝雪って呼んでほしい?」
「そう言われるとしっくりこないものがあるな」
「でしょー?あっ、でもそうだよね」
「何がだ」
「もうすぐお兄ちゃんじゃなくて、お父さんになるんだもんね」


やんわりと笑い掛けてきた朱里は既に母親の顔をしていて、俺も気を引き締めないといけないな、なんて表情を綻ばせた。

窓から差し込む陽の光が、優しい手つきでお腹を撫でている朱里とフローリングを優しく照らしている。
春の穏やかな陽気がうたた寝を誘い、俺は朱里の隣にそっと腰を下ろした。

ふとこんなロマンチストみたいなことを考えてしまう。
もしかして俺と朱里が寄り添って祝福の時を迎える未来がくることを、愛は知っていたんじゃないだろうか。


「これからもずっと大好きだよ、お兄ちゃん」


最愛の妻の言葉に最高の幸福を受け取る。
その余韻に浸りながら、俺は静かに瞼を閉じたのだ。



【愛は知っていた END】
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