君のブレスが切れるまで
「うっ! がぁはっ……あぅぅ!」


 確か入学式のときに見たきりで、それから学校に出てこなかった子だ。名前は何だっけ……。なんだか脇腹が痛くて思い出せない。あれ、なんで痛いんだろう。
 気づけば体も動かない。もしかして蹴られた?


「良い蹴りが入ったねー」
「ふん、この辺にしといてやるか……財布財布と」


 ツインテールの女生徒、リーダー格っぽい人は私の鞄を漁り財布を抜き出していく。
 ああ……やっぱり蹴られたんだね。いつものようにお金も取っていくんだ。でも、今日は定期代が入ってるからできれば取らないで欲しいな。
 けれど、この人達は私の切実な思いに気づきもしないで中身を覗くと、まるで子どもみたいにはしゃいでいた。


「ふぅん、今日はかなり入ってるじゃん」
「おーやったね、あやか! うはうはだ!」
「ありがとー奏ちゃん。今日もごちになるね、またこれくらい持って来てくれると嬉しいなぁ」


 それに付き従う二人、口調が軽い感じの短いショートヘアの女と、長いか短いかどちら付かずの髪を持った、おっとりした優しげな物言い女。
 やってることは優しくもなんともない、こんなのは感謝の言葉なんかじゃない。本当に感謝しているなら札束だけを抜いて、私の財布をその場に投げ捨てるようなことしない。
 でも、そんな恨み言は言わないんだ。言えば長引くし、どうせ最終的には盗られてしまう。そもそもそんな勇気なんて私にはない。だから、何も言わないで彼女達が去るのをじっと待つ。


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